【読書レビュー】西畠清順著「プラントハンター」【要約】&【感想】
「プラントハンター」である著者は、明治元年から150年続く、花と植木の卸問屋
「株式会社 花宇」の5代目になります。
日本全国・世界33か国を旅しながら、数千種類の植物を収集、生産しているそうです。
では、具体的に「プラントハンター」とはどのような仕事をしているのでしょうか?
「ピカソが作った壺に似合う植物を探してください」
「1月15日に7分咲きの状態で3.5メートルの桃の枝を20本ください」
「タイの王族に献上する珍しい植物を1か月後までにそろえといて」
といった電話がかかってくるそうです。
日本各地のみならず、世界各国あらゆるところを駆けずり回って、依頼のあった植物を必ず届けるそうです。
そのような著者が「植物」を通して、様々な人間の喜怒哀楽の姿を自身の体験を元に紹介してくれます。
人間の欲望の行きつく先は何なのでしょうか?
著者が、仕事でフィリピンに行ったときのことです。
大統領の一歩手前までなりかけた大富豪「コー・アン・コー」直属の部下と話す機会があったそうです。
その直属の部下から聞いた話というのは
「コー・アン・コー氏は、もうすでにあらゆるものを手に入れているんだよ。
豪邸もあるし、自家用機も、何十台というスーパーカーも、自分専用のガソリンスタンドも持っている。
ほしいものを全部手に入れたとき、最後にほしくなったのが植物だったんだ。」
というものでした。
「自分が美しいと思える植物、誰も持っていない植物に囲まれて暮らしたい」
というのが大富豪の最後の欲望だというのです。
物質的にどれだけ満たされて豊かな生活を送っていても、どうしても埋められないものがあるのです。
そして、それを埋めるものが植物だったのです。
著者は、仕事をしているうちに
「植物には人の心を豊かにする力がある」
ということに気づくようになったそうです。
植物は簡単に海外から日本に持ってこれるものなのでしょうか?
そう簡単にはいかないようで、さまざまな過程があるそうです。
著者は、日本は検疫の厳しい国だといいます。
「検疫」というのは、海外から輸入する「もの」が虫や病気に汚染されていないかを入国の際に検査することです。
たとえば、土が植物に付着していると、その植物は日本に輸入することができないそうです。
土の中には虫や病原菌のほか、その地域に特有の植物の種などが含まれているからです。
もし、そういったものが日本に持ち込まれてしまうと、おもわぬ外来種の繁殖を招いてしまうそうです。
そうなると、固有の植物が脅かされる状況になってしまうというのです。
著者は、スペインから輸入しようとした植物から、微量の土が検出されたことがあったそうです。
防疫官からは「こちらに判をいただけますか?」
と「植物の焼却処分に関する許諾書」を差し出されたそうです。
こうなると、観念するしかないそうです。
著者は、とてつもなく哀しい思いをしたそうです。
ですが、こうした厳しい検疫のおかげで、日本の美しい自然が守られているのも確かなのだといいます。
著者も
「もっと簡単に植物を持ち込めたら苦労しないですむのに」
と思うことがあるそうです。
ですが、ルールを守ってこそのプロだといいます。
そして、世界の自然を守るためにも検疫は厳しくあるべきだというのです。
著者は、華道家の先生と仕事をすることで、植物に対するさまざまな理解や発想が増え、鍛えられ、育てられてきたといいます。
花宇という会社にとっても、華道家という厳しいプロの目に常にさらされてきたからこそ、花材屋として確たる地位を築いてこられたというのです。
著者が、もっとも影響を受けた華道家が、佐野珠寳先生です。
佐野珠寳先生は、どこかの流派に属している華道家ではありません。
「花方」と呼ばれる銀閣寺に伝わる「花伝書」を現代に伝える仕事をしている花務係の女性です。
銀閣寺で正月などの行事ごとに花を飾る係が「花方」と呼ばれていたそうです。
そして、「花方」という職業は2007年頃、500年ぶりに復活した仕事ということでした。
これまで、著者は
「花宇の存在というのは表に出してはいけないものだ」
とずっと思っていたそうです。
4代目の著者の父や周りの職人からもそのように教えられてきたそうです。
しかし、佐野珠寳先生は
「いやいや、こういう仕事は本当に素晴らしいと思いますよ」
と言ってくださったそうです。
珠寳先生は、みずから山に入り花材を調達することもあるそうです。
なので、そうした体験から
「むしろ、そういうことが一番大切」
と花宇の仕事を純粋に認めてくれたそうなのです。
そのことに、著者は驚きました。
驚いた以上に感激したそうです。
もちろん作品の完成度も重要なのですが
「それ以上に、『見えない部分と過程』が大事」
というのが銀閣寺に伝わる生け花の特色なのです。
つまり
「花の美しさより花を活ける場の支度」
「水を汲みに行くときの心の持ちよう」
など、
「花を活ける以前の過程が大事だ」
という考え方なのです。
目に見える部分がどうでもいいというわけではありません。
そこに立てる花が美しければ美しいほど、花瓶の中身や、その花を用意するための過程がより引き立つというのです。
著者も、ただいたずらに美しい植物をとってくるだけではいけないと教えられたそうです。
「なぜその花なのか」
「どこでどうやって採取したのか」
「誰に届けるのか」
そういう過程が大切だというのです。
「見えない部分と過程が大事」というのは、あらゆることにいえるのではないでしょうか。
私も生活の身近なことを振り返ると
「洗車をするとき」
「食事を作るとき」
「掃除をするとき」
「動画を撮影するとき」
といった場面にも通用する考え方だと思いました。
著者は、特殊と思われる植物の世界を通して、私たちの普段の生活に通じることを教えてくれます。
本書を読むことで、世界中の植物の世界を楽しみながら、植物からいろいろなことが学べると思います。