【読書レビュー】大塚明夫著「声優魂」【要約】&【感想】
みなさんは、大塚明夫さんという声優を知っていますか?
「攻殻機動隊」シリーズのバトー役
「Fate/Zero」のライダー役
「ONE PIECE」の黒ひげ役
などを演じられています。
父親の大塚周夫(ちかお)さんも俳優、声優として活躍された方です。
50歳を過ぎても活躍されている著者が
「声優だけはやめておけ」というのです。
その理由として、声優業界の厳しい環境があります。
2000年代に入り、アニメの制作数は激増し、フルボイスのゲームも珍しくないとのことです。
著者も声優が求められる場は30年前に比べて、多くなってきたと感じているようです。
とはいうものの、現状は300脚の椅子を、1万人以上の人間が奪い合っている状態だというのです。
つまり、声優になったところで、もらえる仕事はろくにないというのです。
著者は、こんなに商売として成り立っていないものを、安易に将来の「職業」として選ぶのは危険だというのです。
そんな厳しい世界で、これまで声優を続けてこられた著者の秘密はどこにあるのでしょうか?
私が本書の中で面白いと思った所をいくつかご紹介します。
まず、著者は、我々の仕事は「声づくり」ではないというのです。
「役づくり」だというのです。
この部分を取り違えている限り、いい芝居に近づけることはないといいます。
舞台役者だろうが声優だろうが「芝居」をしていることには変わりはないというのです。
私は、声優というのは声だけで勝負をする世界だと思っていました。
ですが、「声」だけにとらわれていると、いい芝居はできず、声優の世界では生き残っていけないようです。
もう一つ気になった所があります。
今も生き延びているベテラン声優はたいてい、芝居をすることが本当に好きだというのです。
著者はこれまでに大勢の新人声優と出会ってきたそうです。
ですが、「演じることが本当に好きだ」という人にはほとんど出会ったことがないというのです。
舞台の世界にいくと、「何がなんでも芝居が好き」という人が山ほどいるそうです。
舞台だと、そもそも「食っていけるかも」などと甘い夢を抱く人がいないので、「本当に好き」な人しか近寄らないのではというのです。
飯が食えなくても、バイトをしながら50歳まで楽しく芝居を続けているという人がゴロゴロいるというのです。
そういう世界を知っている著者だけに、声優を目指す人の話を聞いていて「好き」という言葉が「軽い」と思うことがよくあるそうです。
本当に好きであれば、その大好きな芝居がやれるというのなら、どんな条件を差し置いてもやるはずだというのです。
なぜかというと、「やらずにはおれないから」だというのです。
その見極めをするためにも、まずは
「自分が一番やりたいことは何ぞや」
ということを、より正確に、より自分に厳しく知る必要があるというのです。
私は、二浪までして公務員を目指しました。
そして、なんとか公務員になることができました。
大学4年生の時、就職活動をしていて気が付いたことがありました。
それは「自分がやりたいことは、より多くの人のために役に立つ仕事をすることだ!」
ということでした。
私は、公務員になるという夢を追いかけ、2年という年月を費やしました。
2年目は予備校にまで通い、少なからぬお金も使いました。
そこまでの思いと、時間、お金、労力をかけて叶えた公務員という仕事でしたが、私には向いていませんでした。
たまたま、入った役所が向いていなかったのかもしれません。
結論として、私は、19年目に過労でうつ病になり、起き上がれなくなりました。
その後、2年半ほど休職して復帰を目指したものの、復帰の目途は立ちませんでした。
結局、公務員の仕事は休職期間満期を待たず、早期退職することにしました。
早めに辞めたことは、結果的に自分にとっては良かったと思います。
自分に合わないこと、嫌なことを無理やりごまかしてやり続けたからこそ、心身に無理が出て故障してしまったのです。
それは、倒れてから自分のことをゆっくりと落ち着いて振り返ることができたからこそ分かったことでした。
本書を読んでいて、職業は違えど、どの世界でも同じなのだなと感じました。
著者も、「生き方の選択」という言葉を使っています。
いくつかある職業の中からどれかを選ぶというよりも、自分がどのように生きていくのかが問われるのだと思います。