【読書レビュー】山田正彦著「タネはどうなる?!」【要約】&【感想】
みなさんは、お米の銘柄をいくつ知っていますか?
コシヒカリ、ササニシキ、あきたこまち、にとめぼれ、ゆめぴりか、ゆきむすび、ミルキークイーンなど美味しいお米がたくさんあります。
ですが、これはほんの一部で、日本には1000を超えるお米の銘柄があるそうです。
1952年、戦後、国民を飢えさせることがないよう、お米を安定して供給するために種子法という法律が作られました。
これは、国が各都道府県に予算を出して、お米などの優良な品種のタネの開発を支援するものです。
安くて安心、安全なお米などのタネを農家の方に提供することで、農家の方にたくさんお米などを作ってもらおうとしたわけです。
ところで、新しいお米の品種が作られるにはどれくらいの年月、手間がかかると思いますか?
なんと、実際に私たちの食用になるまでのお米に完成させるまで、10年ほどかかることもあるのです。
いくらか候補に上がったお米を実際に栽培してみて、味や収穫量、土地の気候、土壌に合ったものかどうかなど、様々な点を何年もかけて実験や確認を繰り返すそうです。
そして、ようやく合格点に達したお米が、農家の方に栽培してもらえるようになり、私たちの食卓で食べることができるようになるのです。
ところが、2017年4月14日、突然のように種子法が廃止決定になりました。
それに伴い、2018年4月1日から廃止法案が実施されることになりました。
種子法を廃止にした理由について、国は次のような説明をしています。
「コメも消費が落ち込んで生産が過剰になった現代では、その役割は終わった。」
「民間による優秀な種子の利用を種子法が邪魔をしている。」
種子法を廃止すると同時に
「銘柄が多すぎるので集約する」
「そうすればお米のタネなどの値段も下がる」
という理由で新しく農業競争力強化支援法という法律が作られました。
国の説明に出てくる、「民間による優秀な種子」というのは
・三井化学アグロの「みつひかり」
・日本モンサントの「とねのめぐみ」
・住友科学の「つくばSD」
・豊田通商の「しきゆたか」
などのお米です。
農家の方が栽培のために買っているお米のタネの値段はいくらぐらいするのでしょうか?
先ほどの民間のお米のタネは、コシヒカリなどの伝統的なお米のタネと比べると7倍から10倍もするのです。
コシヒカリが1キロ500円ほどで販売されているのに比べ、三井科学アグロの「みつひかり」は1キロ3500円から4000円の値段で販売されているそうです。
これまでは、各都道府県が品質の良いお米のタネを育て、さらに品種改良を重ねて良い品種を作り、安い価格で農家の方に提供をしてくれていました。
このように、安くて品質のよい安全安心なお米のタネを買うことができなくなってしまうと、農家の方たちは、民間の値段が高いお米のタネを買うしか選択肢がなくなってしまいます。
そうすると、農家の方たちがお米を栽培する費用が高くなり、大きな負担を強いられることになります。
結局、消費者である私たちもこれまでの値段で品質の良い、安心安全なお米を買うことができなくなります。
高い値段で民間の銘柄のお米を買うしか方法がなくなってしまうかもしれません。
そして、もう一つ気になることがあります。
それは、これまで農家の方が培ってきたお米のタネを育てる技術や知識が、さきほどの民間企業や海外の企業に漏れてしまうことです。
そうすると、コシヒカリなどの品種を使って、遺伝子組み換えのお米が開発され、そういったお米が日本中に出回ってしまうことも考えられるのです。
種子法はコメ、麦、大豆に限定されたものでした。
それ以外の野菜のタネはどうなっているのでしょうか?
あるいちご専業農家の方は
「当時は、トマトもイチゴもタネの値段は1粒2円ほどだった。」
「ところが、今では、1粒40円から50円になってしまった。」
と話されているそうです。
なんと種の値段が20倍から25倍も上がっているのです。
それと、また一つ気になるのが、農家の方が栽培する白菜やキャベツ、大根など、ほとんどの野菜がF1と言われる遺伝子組み換えによる野菜になってしまっているということです。
F1というのは、First、Filial、Generationの略です。
直訳すれば、「最初の子孫の世代」という感じでしょうか。
問題は、F1の野菜から生まれてくる子供の野菜のことです。
何が問題なのかというと、F1野菜から作られる子供の野菜には、全てタネがないというのです。
これはいったい何を意味するのでしょうか?
親の野菜の立場からすると、孫の野菜が生まれてくることがないということなのです。
そして、F1にまつわる話として、2007年頃、アメリカやヨーロッパで、F1のヒマワリ、ナタネ、トウモロコシの花から蜜を集めているミツバチが大量に消えたというニュースが流れました。
さらに、2009年にNHKのスペシャル番組「女と男」という番組でも、2000年から7年くらいの間に、人の男性の精子量が劇的に減少していることが取り上げられました。
まだ、科学的に証明されているわけではないようですが、ミツバチが大量に消えたり、人の男性の精子量が劇的に減少した原因として、F1の食物を食べていることに問題があるのではと考えられているようです。
それと、また法律の話になってしまうのですが、種子法とは別に、種苗法という法律があります。
では、種苗法にはどういうことが決められているのでしょうか?
ざっくり言うと、農家の方が自分で栽培した野菜からその野菜のタネを取って、もう一度、同じ野菜を作ってもかまいませんということを決めているのです。
つまり、各都道府県から安くて安心、安全なタネが手に入らなくなるのなら、自分のところで栽培した野菜からタネを取ればいいということです。
そうすれば、国産100%の昔ながらの安心、安全な品種が確保できます。
ところが、問題は、2017年に出された、農林水産省の省令です。
この法律によって、農家の方が自分で育てた野菜からタネを取ってはいけませんという野菜が289種類も決められてしまったのです。
この289種類の野菜の中には、キャベツ、ブロッコリー、ナス、トマト、スイカ、メロン、キュウリ、ダイコン、ニンジンなどの野菜が含まれています。
普段、私たちがよく食べている野菜ばかりですよね。
例えば、農家の方が、自分が育てたダイコンのタネを取り、そのタネを植えてダイコンを育てたとします。
すると「10年以下の懲役、もしくは1000万円以下の罰金」
あるいは「懲役の刑を受けた上に、さらに罰金まで納めなければならなくなる」のです。
とんでもなく重い刑罰ですよね。
こういった話をみなさんは知っていたでしょうか?
そして、どのように思われたでしょうか?
これは一大事だと思った県もあります。
例えば、新潟県では、2018年2月に種子法に代わる種子条例が可決されました。
これによって、種子法が廃止される2018年4月までに、新潟県では、これまで開発してきたお米などのタネを守り、さらに優良な品種のタネを増やしていくことができるようになりました。
また、兵庫県では、2018年3月に、種子法に代わる条例を成立させました。
兵庫県は日本酒造りで有名なところです。
兵庫県では日本酒を造っている方たちが、民間のF1のお米だとこれまで造ってきたお酒の仕込みができなくなるので
「兵庫県ではこれまでどおりの品種のお米を作ってください」
と県に訴える動きがあったそうです。
私は普段、地元産のお米を食べています。
地元びいきもあると思いますが、魚沼産コシヒカリに負けないくらい美味しいのではないかと思って美味しくいただいています。
最近では、地元産のお米だけではなく、「あきたこまち」や「ひとめぼれ」、「ひのひかり」という他県で作られた銘柄のお米にも興味を持ち始めました。
そして、実際にそれらのお米を買って食べ比べをしたりしています。
「あきたこまち」や「ひとめぼれ」、「ひのひかり」といったお米は、これまでよく食べていたコシヒカリとはまた違った美味しさがありました。
今度はどのお米を食べようかと迷ってしまうくらいです。
このような美味しくて、安心、安全なお米を食べることができるのも、そのお米を開発してきた県の農業担当者や実際にお米を作ってくれている農家の方々の汗と涙の結晶のお陰なのです。
普段、なにげなく食べているお米ですが、より美味しく、よりありがたくいただくことができるようになりました。
みなさんも色々な銘柄のお米の味を楽しんでみられてはいかがでしょうか?